【咸陽宮】こぼれ話
和の会主催
朗読能シアター【咸陽宮】
お陰様で無事に千龝楽を迎えました。
毎年少ない公演にも関わらず、今年も大勢のお客様にご来場頂き、ありがとうございました。
年に一度体感する、ここでしか味わえない独特の緊張感。
演者がみな口を揃えて言いますが、他の舞台やイベントには無いプレッシャーにスッポリと覆い被さられる舞台です。
お尻の痛い地味ぃ〜な消耗戦って感じ。
でもきっと大輔くんや河合くんはもう朗読の疲れなんてとっくに抜けてるんでしょうねぇ……。
今回の【咸陽宮】の特徴としては、まず読み手が増えた事でしょうか。
舞台の上が随分賑やかになりました。
そして三浦元則さんの篳篥(ひちりき)と楽箏(がくそう)が加わり、お馴染み中田さんの笙や楽琵琶と共に咸陽宮を盛り立ててくれました。
楽器や演じるキャラクターが増え、より立体的に朗読の世界をお届け出来たのかなと思います。
皆勤の甲斐田さん、常連の大輔くん、初朗読劇の河合くんと初参加ながら燻し銀の遊佐くん。
皆さん忙しく、全員揃って稽古する時間があまりありませんでしたが、各々が其々の咸陽宮をしっかり構築し、舞台上でドラマチックな会話と音楽のセッションを楽しむ事が出来ました。
さて、朗読能シアターと言えば忘れてはならないのがアフタートークショー。
本業の朗読は勿論ですが、このアフタートークも演者に厄介なプレッシャーを掛けてくれます。
稽古無しのぶっつけですからね。
複数回ご覧になるお客様もいらっしゃるから、その都度新鮮なネタをご提供すべく、献立と格闘するのであります。
気分はもう板前さん。
ご来場下さったお客様で、他の公演の聞けなかった話や、そもそもどのステージにも上がらなかったボツネタもありますので、高橋郁子さんの演出ノートもお借りして、思い付くままチョット書いてみましょうか。
まず始めに言わなくてはならないのは、今回の朗読、お能では休憩後のお話だけ。
始皇帝暗殺未遂の場面です。
冒頭は、始皇帝と臣下が掛け合うお城自慢から始まり(渡り鳥が俺んちの城を避けて飛ぶとか、三里の盛り土の上に建てたんだぜとか、ピカピカに磨かれた何たらとか、あの辺のお話でしょう、きっと)、それから荊軻と秦舞陽の登場になるそうです。
だから僕の演じた燕の太子、丹の登場は無し。
お能では最後の最後、地謡の方に『その後、燕、丹太子をも程なく滅ぼし…』とチョロっと謡われるだけだそうです。
……程なく。
………ほどなく。
…………この片手間感。
『燕を滅ぼしたよっ!ぁそうそう、ついでに丹もね♪って感じですね。』(遊佐浩二談)
ですので、体感する能【咸陽宮】をご覧になる方はエンディングの『チョロっと』に備えてお耳をかっぽじっておいて下さいませ。
耳ね。
朗読能シアターでは雅楽の演奏が当たり前になりましたが、そもそもお能と雅楽は両極、相容れない存在なんだそうです。
公家の文化と武家の文化、中田さんの言葉を借りると『水泳とラグビー』くらい違うそうです。
後にご本人から『フィギュアとマラソンくらい』と訂正されました。
………なるほどね。
物凄く違うって事ですね。
そもそも中国のお話に日本の楽器で演奏する事に違和感がないのか、中田さんに伺ったところ、雅楽の楽器は元々中国やアジアの方から伝わった物だからダイジョーブとのお話、納得です。
始皇帝危機一髪の暗殺(未遂)の場面。
先日の朗読では、華陽夫人が目配せや琴の音色で必死に始皇帝とコンタクトを取っていましたが、何とお能では普通に言葉で伝えているんですって!
『後ろを見て!』
『屏風があるでしょ!』
『私が琴で変な音を出すから!』
『隙を見て屏風を飛び越えてお逃げなさい!』
『いくわよっ、せえのっ!』
聞こえないフリをする荊軻たちも大変でしょうねぇ〜。
※この華陽夫人の台詞は飽くまで僕の創作ですので実際のお能とは異なります。
相当ね。
お能というと、すり足で歩きながら優雅に厳かに舞うイメージですが、【咸陽宮】では実際に剣が飛ぶシーンがあるそうですよ。
意外にアクティブなんですね、お能って。
他にも、実際に弓を射る演目もあるそうです。
さて、6月27日(土)に上演される、体感する能【咸陽宮】ですが、朗読能でスクリーンに投影されたホンマアキコさんの扇絵の原画やメインビジュアルである福井利佐さんの切り絵の展示、パンフレットで甲斐田さんがご紹介した能面や能装束を試着出来る体験など、楽しい企画がいっぱい!
そしてやはり、我らが河合龍之介くんによるナビゲーションも楽しみです。
秦舞陽はヘタレて階段に座り込んでしまいましたが、27日は堂々たるナビゲーションを期待しておりますぞ!
少々長くなりましたが、今回の朗読能も共演者、スタッフに恵まれ、そして何より楽しみにいらしたお客様の温かい拍手に包まれながら千龝楽を迎えられた事、心よりお礼申し上げます。
演者と観客が向かい合い、互いの創造力と想像力を刺激し合いながら一緒に物語を辿ってゆく朗読劇。
演者の小さな動き一つが、観客の息を呑む微かな気配が、台詞に合わせる演奏の揺らぎや照明の変化が、作品を創り上げてゆきます。
この朗読能がどうぞ皆様のお心に留まります様、そして日本の伝統芸能である “能” に触れる機会の一つになれれば、『お尻が痛い痛い』と言っていた出演者一同、この上ない喜びでございます。