国際声優



とあるホテルの朝食会場での話。
 
その日は早くから上海の団体客で賑わっていました。
活気に満ちた中国語の飛び交う中、夕べの酒がまだ少々残っている彼は“ゴムゴムのぼ〜”状態で朝食を食べに降りてきました。

和食のおかずをあれこれ物色しながら席に着いて独り黙々と口に運んでおりました。

あと一口で食事も終わろうかという頃、納豆の糸と格闘している彼に隣の男性が声を掛けてきました。
 
 
『お食事中失礼します。声優さんですか?』
 
 

『…へ?』

糸を引いた箸をくわえたまま固まっていたら
『実はこの子がどうしても聞いてくれと言うので』
 
見ると男性の向こう側に中学生くらいの女の子が男性にすがり付いていました。 
 
『………はぁ、まぁ。』
と彼が間抜けな返答をすると女の子が
『サンジさんですか?』
と流暢な日本語で聞いてきました。
これには彼もびっくり。
『私、ワンピース大好きです。全部観てます、Every Week』
時折英語を交えながら上海でもワンピースが大人気である事を教えてくれました。
その子は、きっと彼には中国語は分からないだろうからと気遣かって、自分の日本語が苦手な部分を英語にして話してくれたのでしょうが、それが彼にはショックでした。
 
『日本語もよく噛む声優がいるというのに、この子は中国語も日本語も英語も使える…』
 
その子のお母さんや最初に声を掛けてきた男性(添乗員と思われる)も交えて盛り上がっていると周りの団体客も
『声優?』
『ワンピース?』
『…有名?』
 
『…有名?』
とざわつき始め、朝食会場は一時異様な雰囲気に包まれました。

長い旅生活の中、日本人からは一度も気付かれた事が無いのに上海からのお客さんに声を掛けられた彼は
『いよいよ俺も国際声優か…♪』
と二日酔いも忘れてすっかり上機嫌になっていました。

もっと豪勢なおかずをチョイスすればよかったと悔やみつつ、周りの目を意識しながら残りの一口を華麗に口に運び、いつもは飲まない食後のコーヒーを取りに軽やかに席を外しました。
その間に女の子は同年代のお友達に話した様ですが、信じて貰えなかった様です。
コーヒーを注いで戻って来た彼を見てお友達も固まっていました。
 
お友達もこれまた流暢な日本語で彼に言いました。
『サイン下さい、僕も大ファンです!スラムダンク。』
 
彼には最後の言葉が分かりませんでした。
 
 
 
 
スラムダンクってなんだ?


Posted at 2008年07月22日 [火] 10:30 | カテゴリー:雑記 |